●言論を放棄した報道機関とは(下)
まぁ、朝日新聞に同情するわけではないですが、彼らの誤算は、本来喧嘩をしたかった相手(政治家)ではなく、同業者であるNHKがまともにぶつかってきてしまったということだったでしょうね。NHKは不祥事に関する会長辞任問題を抱えて強く出てこないだろうと予想したのが裏目に出ました。逆にNHKはこれ以上のマイナスイメージは致命傷になると全力で抵抗してきたのです。記者会見などの様子を見ると、強気に出ても大丈夫だという雰囲気が感じられます。今回の公開質問状もきっちりとした理詰めでの反論であり、かなりの自信があるのでしょう。
朝日にとって見れば、今回は取材の裏を知る同業者が相手であり、非常に戦いにくいと思われます(録音の件や、メモの対応にも抜かりなし)。それどころか、NHKは会長辞任を決めたらしいので、もう怖いものなしです。返す刀で朝日社長の首が涼しくなってきました。以下のコメントは今の状況をうまく例えてます。思わず膝をたたきました。 「朝日が、海老沢問題で死に体のNHKを踏み台にして安倍と中川を狙撃しようとしたら、死に体のはずのNHKがムクッと首もたげて足首に噛み付いた。片足で蹴り飛ばそうとしたら、あれよあれよという間にマウントポジション取られて、喉首を食いちぎられそうになっている。安倍と中川、ニヤニヤそれを見物中。」 なんとなく、哀れみを催します。 さて、議論を戻しましょう。 おかしな展開を見せているこの論争ですが、あいかわらず事実(政治圧力はあったのか)は藪の中なわけです。何度も言うように、政治家の圧力に屈して報道内容を変えたのであれば大問題です。それが事実であれば厳しく糾弾されてしかるべきです。 しかし、それが事実として証明されない以上、現時点でそれについてどうこう言うことはできないはずです。それを、朝日新聞や「識者」たちは、「問題の本質は政治とメディアの癒着体質だ」といい、事実の解明をうやむやにしています。これは、書かれた側の人権を無視したものであると同時に、国民の「知る権利」を奪っていることになるとも言えるのではないでしょうか。私たちは、何よりも「真実」を知りたいのですよ、マスコミさん。 政治権力の介入は断固として拒否すべきです。その点、NHKはまことに微妙な存在です。もっと毅然とした対応が求められるでしょう。しかし、ちょっと視点を移して考えると、マスコミによる印象操作の恐ろしさということにも、私たちは十分に考慮しなければならないでしょう。今回の騒動も、相手がNHKでなく一個人だったら、絶対にこうはいかなかったでしょう。また、NHKを見ている人と、テレビ朝日を見ている人では、意見が正反対になってしまうかもしれません。まことに「ものは言い様」で、情報弱者の一般人は大きい「口」の言った内容で右にいったり左にいったり、いいように操られてしまうのです。ですから、言論機関にも厳しいチェックが必要なことは論を待たないでしょう。 あと、今回は取材方法についても私は大いに疑問を持っています。というのも、朝日新聞には過去でっちあげ記事の前科があるからです(さんご礁落書き記事の件、作家の高千穂遥氏の1月19日の日記)。いうまでもないことですが、どんなに正しい記事でも、違法な取材で得た事実を基にしていてはその価値は失われます。それは最早正義ではないでしょう。今回言われているように、「○○ですよね」とか「もう○○さんの証言はとってある」とか、誘導尋問やらひっかけのようなテクニックで欲しいコメントを引き出したとしても世論の支持は得られないでしょう。また、だからこそ取材テープが出せないのだろうと思いたくもなるわけです。この点も、朝日側の徹底調査が求められます。 最後に。今回の騒動は、朝日を始めとする報道機関がもはや、メディアの多様化(テレビ、新聞、雑誌以外のネットメディアの存在)についていけない存在となってしまったことを白日の下にさらしてしまったのだと思います。いつの間にか、今まで自分たちが戦ってきた土俵と違うところで試合が行われている。そこには彼らが「サイレントマジョリティー」と思い込んでいた、沢山の人たちが意見を述べ合い情報を交換し合っている。番組や紙面でコントロールしきれない流れが作られつつあるのです。これは報道機関のチェックという点ではプラスでしょう。 逆に悲観的な教訓としては、21世紀にはいり、右傾化する世論や国際情勢に対応できていないマスコミは、報道の責務を放棄した結果、自ら首を絞めることになるという点が挙げられるのではないでしょうか。(終わり)
by redhills
| 2005-01-24 13:17
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