"the Akasakan diary"    ~リトル君の赤坂日記

●ジダンの放物線(W杯21日目)

 準々決勝の残り2試合が行われた。イングランド対ポルトガルは、後半の早い時間にルーニーを退場で失ったイングランドが、堅守でポルトガルの得点を許さず、延長戦も凌ぎきったものの、PK戦で力尽きた。ポルトガルのスコラリ監督のワールドカップでの連勝は12に伸びた。注目の一戦、ブラジル対フランスの新旧王者対決は、フランスがジダンのフリーキックにアンリが合わせてあげた1点を守りきり、優勝候補筆頭のブラジルに勝利、4強へ最後の名乗りを上げた。この結果、ブラジル連覇の夢は消え、ベスト4はすべてヨーロッパのチームとなった。

イングランド 0-0(1PK3) ポルトガル

 イングランドにとっては、前回大会と2年前のヨーロッパ選手権で破れたスコラリへのリベンジのチャンス。スタンドでは、試合前からイングランドサポーターの時の声がこだましていた。注目の布陣は、ポルトガルはオランダ戦で負傷し、出場が危ぶまれていたロナウドが出場し、出場停止のデコのポジションにはチアゴが入った。イングランドはやはりルーニーの1トップだった。

 ベスト8ともなると、どのチームも試合運びが慎重になる。このゲームもそうだった。相変わらずイングランドはルーニーが孤立気味。一方のポルトガルも、やはりデコの不在は大きく、ロナウドやフィーゴの単発的な仕掛けに頼る攻撃は驚きに欠け、堅固なイングランドの最終ラインを突破できない。ややこう着状態のまま前半が終わる。

 しかし後半早々、ピッチに衝撃が走った。ベッカム交代。右足を引きずっている。そして続く61分、更なる衝撃がイングランドを襲う。ルーニーへのレッドカード。ただでさえフォワードが足りず、後半のどこかでクラウチを投入してのパワープレイを考えていたエリクソンはゲームプランの修正を迫られる。止む無くコールを下げてクラウチを入れるものの、彼の孤立振りはルーニー以上だった。しかし、ポルトガルの攻撃が手詰まりなのも幸いし、イングランドはハードな守備とハーグリーブスの攻守に渡る活躍で終盤のポルトガルの猛攻を凌ぎきった。

 延長戦。ほぼ完全にボールを支配されている状態で得点を望めないイングランドが30分を守りきり、PK戦に持ち込んだのはさすがだったが、4人のキッカーのシュートコースを全て読んだポルトガルのリカルドの前に、またも涙を飲んだ。イングランドは、最後まで自慢の中盤が評判どおりの輝きを見せることなく、またルーニーも無得点のままドイツを去ることとなった。

ブラジル 0-1 フランス

 「いつブラジルがその本当の力を見せてくれるのか」。世界中が期待した。だが、カルテット・マジコ(魔法の4人)と言われた前線の4人の奏でるハーモニーに世界が酔いしれる瞬間は、ついに訪れなかった。史上最強の呼び声も高かったブラジルがなぜ破れたのか。その原因はベンチの采配にあったように思う。その一方で、これが底力というのだろうか。フランスが会心の試合運びで王者を撃破した。世界最高レベルの戦術と個がぶつかり合った対決は、サッカーの奥深さを示す一戦でもあった。

 この試合、ブラジルはアドリアーノとロビーニョを先発から外し、ロナウドとロナウジーニョを2トップに、そしてカカをトップ下に置いた。カルテットが初めてトリオになったのだ。そのかわりに、ボランチの4人のうち、エメルソンをのぞいた3人を同時にプレーさせた。明らかに守備重視の陣容。王者ブラジルがここに来て自分のスタイルを捨てたのだ。これは驚きであるとともに、パレイラの苦心と不安の表れでもあるように感じられた。

 案の定、攻撃の基点がカカに限定されたために、マケレレとビエラの圧力が1点に集中し、2トップが孤立する。特にロナウジーニョが得意のドリブルを仕掛けるチャンスが全くといっていいほど訪れない。ゼ・ロベルトやジウベウト・シウバがカカのフォローをしようとするが、リベリー、マルーダ、そしてジダンの早いチェックがそれを許さない。中盤の組み立てを省略してサイド攻撃をしようにも、リベリーがしきりにサイドを突破するため、ロベルト・カルロスもカフーも攻め上がれない。中盤を圧倒的にフランスが支配し、ブラジルは有機的な攻撃が全くできないまま、防戦一方で前半を終えてしまう。パレイラの取った作戦の失敗は明らかだった

 後半、フランスの攻撃は鋭さを増してゆく。46分、ジダンのフリーキックがビエラにヒットする。52分、アンリの突破からのヒールパスにビエラが飛び込む。そして57分、左サイドでのフリーキック。ジダンの右足から放たれたボールは、緩やかな弧を描いて無人のファーサイドへ。誰もがその行方を目で追ったそのとき、ただ1人、アンリがボールの落下地点へと到達し、右足でボレーを決めた。大歓声がスタジアムを覆う。公式戦で初めて、ジダンとアンリのホットラインが繋がった。フランスの攻撃力が完璧なハーモニーを奏でた瞬間だった。

 今大会初めて追い込まれたセレソン。前掛かりに攻撃をしてきたが、フランスは全くひるまない。中盤でボールを奪い、リベリーやアンリが何度も突破を仕掛ける。流れを変えるべく、ようやくパレイラが動く。63分、アドリアーノを投入し、ロナウジーニョをトップ下に下げる。カルテットの復活。だが、一度後手に回った流れはなかなか止まらない。逆にフランスは、ブラジルの背後に広がる広大なスペースに、ジダンやビエラらが鋭い矢を放つ。ルシオがアンリを倒し、イエローカードを受ける。時間は刻々と減ってゆく。

 残り15分。今こそカルテットがその魔法の杖を振るう時のはずだった。だが、必死の攻撃もなかなか実を結ばない。焦るパレイラは、何とカカを下げてロビーニョを投入する。だが、ドメネクも抜かりが無い。疲れの見えたリベリー、マルーダをゴブとビルトールに代え、中盤に新たな力を加えて対抗、またペナルティーエリア付辺では、テュラム、ギャラス、ビエラ、マケレレの4人がカルテットを抑え込んだ。とうとうブラジルは最後までゴールを割ることは出来なかった。

 思うに、フランスのドメネクは自分のチームの戦術と力を信じ、ブラジルに対しても普段どおりの布陣で臨んだのに対し、パレイラはよそ行きのサッカーをしてしまったのではないだろうか。確かに持ち前の攻撃力を活かしきれていない状況を変える必要はあっただろう。だが、そこを我慢して、選手たちが答えを見つけ出すのを待つべきではなかったか。はた目には、不本意な内容であっても、王者として余裕の戦いをしていると思われていたブラジルだったが、実際のところ、パレイラはかなり追い込まれていたのではないだろうか。世界最高のタレントを有しながら、結局最後までベストフォームを見つけることが出来なかったブラジルの姿に、サッカーの奥深さを思う。

 逆に、ふがいない試合振りに、噛み合わない攻撃は戦術の誤り故であると厳しい批判に晒されていたドメネクとフランスは、グループリーグ敗退の危機を乗り越えた結果、ジダンを中心にチームの結束力が格段に増し、潜在能力を爆発させた。チームと監督のメンタルの差が勝敗を分けた一戦だった
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by redhills | 2006-07-02 09:55 | サッカー
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赤坂日記・・・赤坂在住の"Akasakan" リトルが、東京のへそで日々の思いを綴る。
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