雷鳴(続々)・有権者が望んだもの
今回、安倍政権は確かにベタ負けした。では有権者は安倍政権を否定したのだろうか。
まず、与党に投票しなかった有権者は安倍政権を「全」否定したのか、という問題がある。次に、安倍政権の全否定=自公政権の否定なのか、それとも有権者は自公政権はそのままでの首のすげ替えを望んでいるのか、というポイントがある。そして自公政権の否定がなされたというのならば、それはすなわち「有権者は政権交代を望んだのか」「有権者は民主党政権を望んだのか」について考えることを意味する。 これが衆議院総選挙ならば単純だ。総選挙は政権選択の選挙だから、与党が負けて過半数割れとなれば、下野するしか道はない。すなわち政権交代(もしくは政権与党の組み替え)が起こる。しかし参院選は与党が負けても、過半数割れを起こしても、そうはならない。なぜか。それは内閣総理大臣を選ぶのは衆議院だからだ。詳しい憲法講義は本意ではないので割愛するが、日本国憲法においては様々な点で衆議院は参議院に優越した地位を与えられており、その究極が上記の点にある。だから参院選の場合、話はややこしくなるし、こういったことについて考えないとならなくなる。 では本題に戻ろう。有権者は安倍政権を否定したのだろうか。私の答えは「否」である。 有権者の過半は安倍政権を全否定してはおらず、政権の存続を望んでいる。すなわち、政権交代も民主政権も有権者の望むものではない。「ただし」政権の存続は無条件ではない、というのが私の見立てだ。 これは単純な獲得議席や得票を見てもわからないので、マスコミによる有権者の投票行動分析の記事などから推測するしかないのだが、それらから考えると少なくとも、今回の選挙で有権者は政権交代を求めたとは言えないと思える。以下にその理由を説明する。 まずは基本データとしての比例票の動きだ。確かに今回、民主党は比例票で自民党の約1.4倍の票を集めて圧倒的な第1党となった。だがこれはすでに述べたように、以前から見られた傾向なのだ。実際、前回3年前と比べても、自民は1.9ポイント減、民主は1.7ポイント増と、得票率にそれほど大きな変動はない。議席数の差が開いたのはやはり、1人区の勝敗の結果なのだ。これはつまり、「自民党」に投票する人はさほど減っておらず、自民党の支持者はあまり減ってはいないという1つの証左となる。 そうなると投票の「質」を見るしかない。つまりは出口調査の結果だ。 日経新聞によれば今回、無党派層は有権者全体の19%であったというが、これは前回とまったく同じである。そしてそのうちの51.2%が民主党に投票したと回答したが、実はこれも前回とほとんど同じだった。つまり、無党派層については今回、特に目新しい投票行動はなかった、ということになる。となると、「支持政党あり」と答えた人たちの投票行動が差をもたらしたという可能性が高まる。そこで焦点が当たるのが、自民党支持層の投票先だ。 やはり違いはここにあった。今回はなんと、自民支持層の約4割が自民以外に投票しており、民主に流れたのは24%、つまり4分の1に及んでいた。1人区のところで説明したように、これは自民にとって差し引き48%の痛手となる。一方民主はといえば、支持層の約8割を確保した上に、自民へ流れたのはたったの5%しかなかった。これが決定的な差を両者にもたらしたのだ。 このことからはっきりと分かることがある。それは、「今回自民党を惨敗させたのは自民党支持者である」ということだ。それはすなわち、「彼らは民主党が好きで勝たせたのではない」ということなのだ。これこそが、私が「有権者は政権交代を望んでいない」と判断する最大の根拠だ。 もう少し具体的に説明してみよう。 もう自民政権はコリゴリだ、政権交代して欲しい、というのであれば、まず自民支持者が激減しなければおかしい。しかし、比例票を見る限り、そういった傾向は見られない。さらに、民主党が増やした票の多くは自民支持層から奪ったものだったと推測されるが、もし政権交代を有権者が望むのであれば、彼らは支持政党を変えるはずである。ところが、自民支持者は民主党に投票しながらも、依然として自民支持者なのである。この2つの分析から割り出される有権者の「ココロ」はただ1つ、「民主政権は望んではいないが、今回は自民を負けさせた(民主に勝たせた)」しか考えられないのである。つまりは、いわゆる「キツイお灸を据えた」ことに他ならない。 この点については特に、テレビを始めとするマスコミを信用してはならない。彼らは十年一日のごとく、「2大政党制」「政権交代」を叫んでいるが、それはまったく実証データに沿った主張ではなく、反権力、長期政権への嫌悪感といった、彼らマスコミの持って生まれた性質からくるものである。今回も島田紳介氏などがしきりに、「自民にお灸を据えた、なんて甘いこと思わないで下さいよ」などと与党幹部を責めていたが、実際の有権者のココロはまさにその「お灸」だったのだ。 もう忘れてしまった(というか知らない)方がほとんどだと思うが、18年前の参院選の結果を受けて、当時の社会党委員長(党首)だった土井たか子氏が何と言ったか。「山が動いた」と彼女は言ったのだ。マスコミも大はしゃぎで社会党の躍進を書きたてた。だが、その後社会党はどうなったか。それは言うまでもないだろう。社民党は今回の参院選で、たったの2議席しか獲得できなかった。民主党が同じ道を辿らないという保証はどこにもないのだ。 では引き続き安倍政権が続いていくのかというと、そうは断言できない。なにせそこは腐っても鯛、9年前も、そして18年前も、永田町のど真ん中にいた小澤一郎氏である。政界は一寸先は闇。何が起こるかは一切確約できない。だがそこをあえて踏み込んで、今後の安倍政権と政界の行方について考えてみようと思う。(つづく)
by redhills
| 2007-08-02 09:33
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