"the Akasakan diary"    ~リトル君の赤坂日記

2004年 11月 11日 ( 1 )

●文芸坐で映画を (11月11日)

 僕は映画が好きで、結構見るほうである。調子付くと月に20本くらい見ることもあるが、ならせば年間60本くらいになると思う。なかなかだと思うが、自分としてはまだまだ見たいと思っている。他のことを考えずに映画を思う存分見られればどれだけ幸せだろうと思うくらい。ビデオは見ずにできるだけ映画館で見る主義でそのうえ、大作より掘り出し物との出会いに喜びを感じる性質なので、行くのはどうしてもシネコンより、過去の映画を2本立て、3本立てでみせる名画座や、アート系の映画館となる。ホームグラウンドは池袋の『新文芸坐』だ。

 昔、『新文芸坐』は『文芸坐』だった。そして『文芸坐』で僕は映画に出会ったのだった。もちろん、子供のときから映画は見ていた。でも、やはり僕が映画を見るようになったのは、『文芸坐』で映画を見てからのことだ。

 池袋駅から徒歩5分のところにある、薄汚れた白い壁に羽の生えた女神(竪琴を持っているのでおそらく芸術の女神ミューズ)のレリーフと「BUNGEIZA」のロゴが目立つ建物、それが『文芸坐』だった。『文芸坐』には1と2の二つの映画館があった。『文芸坐1』は大きくて、主に少し前に終わった封切りのハリウッド映画や邦画の大作を2本立てでお安く見れますよ、という感じ。『文芸坐2』のほうは、横っちょの入り口から暗い階段を地下に下りていった先にあり、ミニシアターとして、よりこだわった作品を上映していた。『文芸坐』ではいつも何らかのテーマに合わせた特集が組まれていた。テーマは監督だったり、俳優だったり、アカデミー賞だったり、アジアだったり、サスペンスだったり、ロマンポルノだったり、その時々で様々だったけれど、いつも感心したのは、組まれた2本が常に何らかの共通点(もしくは著しい対比点)を持っていたことで、今日は何が隠しテーマなんだろう、と思いつつ見るのも楽しみだった。本当に映画を良く見ている人たちがプログラムを組んでいるんだと思った。

 初めて『文芸坐』で見た映画は忘れもしない『七人の侍』だった。一度は見たいと思っていたので、思い切って行ってみたのだった。地図を片手に風俗街を走り抜けて着いたときにはもう上映時間を過ぎていた。受付で「『ななにんのさむらい』1枚下さい」と言ったら、メガネをかけたお姉さんに上目遣いで「『しちにんのさむらい』ですね」と返された。「やべぇーしくじった」と思いながらドアを開けると、いきなり「野武士のテーマ」が耳に流れ込んできた。立ち見が出ている暗がりの中をうろつき、ようやく壁際の一角に居場所を見つけた。目が慣れてくるとかなりの混雑だった。
 恥ずかしかったからか走ってきたからか、館内はかなり蒸し暑く汗が出たが、そんなことはすぐに消し飛んでしまった。『七人の侍』は最高だった。何といっても三船の菊千代は魅力的だった。そして宮口精二演じる久蔵の剣豪ぶり。ルパンに出てくる五右衛門を髣髴とさせる(失礼を承知の上、当時の感覚です)しぶさと強さとストイシズムに酔った。4時間近くの間立ちつづけだったし、画面は白黒だったけれどもまったくそんなことは忘れていた。静と動、明と暗、正と邪、笑いと怒り、かっこよさ、色気、そんなものが怒涛のように押し寄せてきた。表現のしようのない、強烈な体験だった。

 映画と出会った僕はそれから『文芸坐』に通い詰めた。1人暮らしをするのにわざと池袋から2駅のところにしたのも、帰りに寄るのに都合が良いからだった。
 いつ行っても『文芸坐』には映画が大好きで見にきた人たちが集まっていて、館内には映画を見る喜びが充満していた。おかしい場面では爆笑が、シリアスな場面では張り詰めた空気が、悲しい場面では嗚咽が館内を満たした。それはまぎれもなく、「ニューシネマパラダイス」の光景そのものだった。もちろん、実際は「ニュー」ではなかったけれど。

 その『文芸坐』が取り壊されると決まり、最後の上映がされる日。急いで仕事を切り上げ、初めて行った時と同じように、池袋の街を走った。確か泉鏡花原作の「婦系図(をんなけいず)」だったと思うが、違ったかもしれない。スクリーンが暗くなり、明かりが灯る。拍手が鳴り止まない。すると、館主の三浦大四郎さんが壇上に上がり、短いお礼とお別れのあいさつを述べられた。また拍手。僕も拍手。いくつもの花束が贈られる。むせび泣く声があちこちから聞こえてきた。全てが終わっても、みななかなか立ち去ろうとしない。僕も剥げ落ちた壁を触りながら清潔とはほど遠いトイレなどを歩く。外へ出ると、テレビが取材に来ていた。
 10歩進む。振り返る。もう少し歩く。振り返る。やがて、覗き部屋のネオンの光と呼び込みのテープの声が僕の目と耳から『文芸坐』を奪ってゆく。さようなら、『文芸坐』・・・。
 
 8年が経った。4年前に同じ場所で生まれ変わった『新文芸坐』は1、2階がパチンコ屋で、映画館は3階にある。2本立てのプログラムは健在で、あいかわらずのこだわりを見せていて、嬉しい。席もゆったりとし、音もドルビーサウンド、トイレは清潔だ。でももう一度でいいから『文芸坐』で映画を見たい。特にあの、暗がりの底にあった『文芸坐2』で。
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by redhills | 2004-11-11 19:22 | 映画



赤坂日記・・・赤坂在住の"Akasakan" リトルが、東京のへそで日々の思いを綴る。
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