●絆が呼んだ勝利(W杯18日目)
決勝トーナメント3日目。イタリア対オーストラリアは、退場者を出して1人少なくなったイタリアが伝統の堅守でオーストラリアの攻勢を凌ぎ、後半ロスタイムで得たPKをトッティが決めるという、劇的な勝利でベスト8を決めた。スイス対ウクライナは、延長戦でも勝負が付かず、0-0のままPK戦へと持ち込まれた結果、ウクライナが3-0で勝利し、初出場での準々決勝進出を果たした。スイスは無失点のまま大会を去ることとなった。
●イタリア 1-0 オーストラリア 激闘のE組を突破したイタリア。今大会のアズーリは攻撃力の高いチームだという評判だったけど、やっぱりアズーリはアズーリだった。そんな、いかにもイタリアらしい、「チャオ~」って感じの鮮やかな勝ち方だった。オーストラリアはとても負けた気がしないだろう。 マルチェロ・リッピは初めてトッティをはずし、デル・ピエロを先発に使った。国内でも今ひとつのプレーぶりが批判されている王子様はベンチからのスタート。4-3-3という、新生アズーリ自慢の攻撃的布陣でオーストラリアゴールを狙う。相手は前回大会、韓国を率いていたヒディンク監督のオーストラリア。そう、アズーリ達にとって、決して忘れることの出来ないあの日の雪辱をするときがやってきたのだ。まずは軽快に攻撃に守備にと動き回るアズーリ。トニのポストプレーから決定的なチャンスを掴むが、オーストラリアも持ち前のハードな守備で対抗、得点を許さず、緊張感漂う締まった攻防のなか前半終了。 後半。積極的なリッピは早くもジラルディーノを諦め、イアキンタを投入するが、チェコ戦のヒーロー、マテラッツィの一発退場という事故が5分後に起きてしまい、状況は一変する。トニを下げざるを得なくなり、ほぼ、イアキンタの1トップ状態に。だが、ここからアズーリのDNAが働き出す。カンナバーロが超人的な強靭さでヴィドゥカら屈強なアタッカーを抑え込む。ガットゥーゾやペロッタが中盤を所狭しと駆け回り、体を張ってラストパスを入れさせない。攻め込まれても最後の一線は許さない。球際での集中力が、ゴール付近になると格段に増す。「守る」となったらやはり世界一かもしれない。相手が1人減るという事態は、ヒディンクにとっても余り歓迎できることではなかったかもしれない。 しっかり守って、ボールを取ると2人、3人でゴールに迫るカウンターも体に染み付いているかのように無駄がない。そして、守備も決して深追いはせず、非常に効率的。ほぼ40分間、エネルギー浪費を最小限にする形できっちりと凌いでゆく。ジリジリと過ぎてゆく時間。こう着状態の試合展開。当然、延長戦が視野に入ってくる。それに、まだ1人の交代もしていないオーストラリアがいつパワープレイを仕掛けてくるのか。ベンチの読み合いとなる。ところが、意外にも動いたのはリッピの方だった。75分、最後のカードを切り、トッティをピッチへと送り出したのだ。揺るぎ無い選手への信頼がなければ、このタイミングで、この交代はできなかったろう。逆にヒディンクは後半終盤まで交代をためらってしまう。結局、この采配の差が勝敗を分けたような気がする。 後半ロスタイム。左サイドバックのグロッソが必死に駆け上がり、ロングパスに追いつくと、中へと切れ込む。1人目のタックルをよろめきながらもかわしてペナルティーエリアへと侵入、2人目のスライディングタックルについに倒れる。土壇場で掴んだPK。バッタリ倒れたグロッソのもとに駆け寄るアズーリ達。ロスタイム目安の3分まであと15秒だった。 盛り上がるスタジアム。ペナルティースポットにボールを置いたのはもちろん、あの男。そう、フランチェスコ・トッティ。無念の退場から4年。高まる思いもあったかもしれないが、彼の表情はあくまでも集中していた。ものすごい重圧だったろうが、すばらしいシュートがゴールネットを揺さぶる。そして直後に試合終了。まさに劇的な勝利だった。チームメイトらの祝福にもまったく表情を変えない彼に、精神的な成長を見た。 ●スイス 0-0(0PK3) ウクライナ 52年ぶりのベスト8を目指すスイスと、初出場でグループリーグを突破したウクライナ。発展途上の2カ国の戦いは、激しい中にも青々とした清々(すがすが)しさを感じさせる、クリーンで見ごたえのある一戦となった。 反町解説でも言っていたけど、ラフプレーがまったくなく、ファウルも極端に少ない。かといって手を抜いているのでは決してなく、双方、チーム戦術を忠実に実行し、攻守に渡って洗練されたプレーが展開された。2日前に試合をしたばかりなのにも関わらず、集中力が途切れず、特にディフェンスにおいて好プレーが見られた。リスクを犯さない堅実な戦いぶりで、延長を含めた120分間、ほぼ互角の内容だった。 勝敗の行方はPK戦に託されたが、もうそこからはある意味時の運。両チームとも健闘したと思う。勝ったウクライナはもう失うものは何も無い。イタリアに全力でぶつかっていけるだろう。負けたスイスも、若い芽の成長は今後へ向けての大きな楽しみだろう。2年後のヨーロッパ選手権主催国として、更なる飛躍への確かな足がかりを掴んだ大会だったと言えるだろう。
by redhills
| 2006-06-27 11:57
| サッカー
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