日経・7月10日 鉄と闘犬
今日の記事は
・東京高裁、スティールの抗告棄却~濫用的買収者と認定~ブルドック防衛策発動へ (1面) ・社説「買収防衛で踏み込んだ高裁」(2面) ・スティールに痛手~ファンドの活動に制約も (3面) ・ファンド規制「あってもいい」~経団連会長 (5面) ・スティール「今後は白紙」~ブルドック、発動で赤字も (13面) の5本です。 米投資ファンド、スティール・パートナーズがブルドックソースの買収防衛策の差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審において、東京高裁は地裁決定を支持し、スティールの申立てを棄却しました。決定の骨子は 1 株主総会で8割を超す賛成で可決された防衛策は著しく不公正な方法ではない 2 スティールは濫用的買収者と認めるのが相当 3 不当な公開買い付けに対する防衛策であれば、買収者を差別的に扱っても株主平等原則には反しない の3点ですが、高裁決定で注目すべき点は、地裁決定では明確ではなかった、「スティールが濫用的買収者か」という点について、明確にそれを認定した点です。 高裁はスティールの過去の投資行動について検証したうえで、「最終的に保有株を売却して高額の利益を得た」と指摘し、「短中期的に株式転売などでひたすら自らの利益を追求する濫用的買収」であると断定しました。今回のブルドックへのTOBについても、「あくまで証券売買による利益獲得が目的で、会社の資産処分も見込んでいる」と分析、「容認しがたい不当なもの」と、そのTOBを指弾しました。 株式会社や株主利益のあり方については、「(株式会社は)理念的には企業価値を最大化して株主に分配する営利組織」としながらも、「(株主)単独で営利追及活動ができるわけではなく、従業員や消費者などとの経済的活動を通じて利益を得ている」存在であるとし、「企業価値について株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界がある」と判示しました。また買収防衛策導入の手順についても、従来否定されてきた取締役会決議のみではなく、株主総会の特別決議を経たことで、一部株主に対して著しく不公正とはならない、としました。 スティールは最高裁への特別抗告なども可能ですが、その決定が下る前にブルドックが新株予約権を発行してしまえば差し止め請求は訴えの意味が無くなります。今回の決定の結果、わが国で初めて新株予約権を使った買収防衛策が発動されることが事実上不可避となりました(11日に発動済)。これにより、スティールの持ち株比率は現在の約10%から3%以下に減少する見通しです。 スティールにとっては、濫用的買収者と認定されるなど、高裁への抗告により逆に大きな痛手を負った格好であり、今後の日本における活動にも多大な影響が出ると思われます。その衝撃の大きさは、「決定は予想外で、対応は白紙」とのコメントにも現れています。 また今回の決定は、スティールのみならず、売却益目的で敵対的買収を仕掛ける投資ファンドの活動に楔を打ち込むことになりますが、投資ファンドのすべてが否定されたというわけでは勿論ありません。スティールの場合、100%買収を目指しながら最後まで明確な経営計画を提示しなかったことなど、明らかに経営者として企業価値を高めようという意思に欠けていたことが問題とされているのであり、ファンドの中には、例えばクライスラーを買い取ったサーベラスなど、腰をすえて経営再建に取り組み、新たな企業価値を生み出そうというものもあるわけです。 この点については経団連の御手洗会長も、「グリーンメーラー(乗っ取り屋)的な動きは企業価値を高めず企業を疲弊させる。ある程度の規制があってもいい」と述べ、財界としてファンド規制が必要との認識を示しました。 資本主義はカネこそすべて、と思われがちですが、今回の決定は、カネにも心アリということで、その使い方も問われるべきであることを示した、と言えるかも知れません。 それにしても…。やり手の投資ファンドに怯むことなく立ち向かい、防衛策発動に至るまでの攻防を陣頭指揮したブルドックの社長は実践女子短大卒の池田章子女史です。日本の女性はたくましいですね。
by redhills
| 2007-07-19 18:53
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