雷鳴(続)・敗因
今回の与党惨敗の原因は、マスコミ各社が一致してあげているように、消えた年金、政治とカネ、閣僚の失言、の3つだ。でも私が考えるところ、この中で真犯人は1人だ。ではそれは誰か。
ここ数十年にわたる問題である年金はともかく、あとの2つは、政治とカネ(佐田前行革相、松岡前農相、赤城農相)、失言(久間前防衛相)、ともに安倍総理の任命責任が絡む問題だ。政権成立後1年もたたないうちにこれだけの閣僚が問題を起こすという事態は、その政権運営能力や人心掌握が問われるべきものであり、総理は少なからず責めを負うべきものであった。だが私は、これらは選挙戦の流れを後押ししたに過ぎなかったと見る。勝敗を決した原因は年金問題、これに尽きる。 年金記録の問題が民主党の長妻昭議員によって衆議院決算行政監視委員会で取り上げられたのは、実は昨年の12月6日のことであり、同議員がこの問題で安倍総理と対峙し激しい応酬を繰り広げたのは、今年の2月14日のことであった。年金記録の調査をあくまでも突っぱねる政府側の態度には明らかに、ことを大きくしたくないという思いと同時に、これは安倍政権以前から続く問題であり、事務所費や失言に比べれば政権への影響は大きくないと考えていた節がある。そしてそれが初期対応を遅らせてしまう。 だがここから事態は急展開を見せる。社会保険庁の年金データの呆れた管理実態が明らかになり、噂でしかなかった「消えた年金」が現実であることが報じられるや、この問題は飛躍的に世間の注目度を増していく。こうなったときのマスコミは実に恐ろしい。おいしいネタに一度食いついたら、決して放さない。各社は競うように、年金と社会保険庁の実態を暴いていった。急激に高まる批判に政府与党は慌てて対策を練り、総理を先頭に大々的にアピールをしたが、時すでに遅し。「年金不信→政権不信」という激流はもう誰にも止められなくなっていた。 これぞまさに「蟻の一穴(いっけつ)」。半年前に開いた小さな穴の向こうに広がっていた、年金記録のブラックホールに気付いてすぐにフタをしておけば、たとえそれがバンドエイドでしかなかったとしても、有権者はこれほどまでには怒らなかっただろう。だが、安倍総理やその取り巻きにはそれが見えなかった。そして対応を誤った。 加えて、問題が年金だったというのが致命的だった。 「9年ごとのジンクス」というのがある。これは、参院選では9年ごとに与党が大敗すると言うもので、9年前の1998年には橋本政権が、18年前の1989年には宇野政権が同様な惨敗を喫し、辞任へと追い込まれている。今回の安倍政権の命運については後述するとして、図らずも選挙結果はジンクス通りとなったわけだが、言いたいことはそこではない。橋本政権を葬ったのも、宇野政権を倒したのも税問題だったということなのだ。 宇野政権は消費税施行(3%)で、橋本政権は消費税率アップ(3→5%)による景気失速で、惨敗した。昔から税制は最大の政治マターと言われ、権力者が避けたがるのはこのためだが、これは少し考えれば至極当然な話だ。 国民は国の予算がどれだけ増えようが、借金がどれだけ増えようが、実はそれほど気にはしない。実感がないからだ。でも彼らは増税には敏感だ。それはイヤでも実感することになるからだ。だからこそ、自民党は赤字国債を何百兆円発行しても増税は避けたいのだ。もちろん、赤字のツケはいつか国民に巡ってくる。しかし、頭ではわかっていても、それを思い知るのは、実際に手取りが減ったりお釣りが減ったりしたときなのだ。 もうおわかりだろう。年金とは、選挙においては税と同じ効果(破壊力)を持っているのだ。出(税)と入り(年金)との違いはあれ、人間誰しも自分のお金のことにはうるさいに決まっている。それが、信用して預けていたお金がいつのまにか消えてなくなっていたなんてことになったらどうだろう?これが銀行だったらたちまち取り付け騒ぎで破産だろう。そんなとんでもないことを国がやっていたというのだから、有権者が怒るのも当然なわけだ。しかも預けていたのはただのお金じゃない。なけなしの稼ぎの中から、老後の備えにと積み上げてきた大切なお金なのだ。 若干補足すれば、年金問題は数年前からくすぶっていた問題だったというのもある。今までも何度となく争点とされながらも、選挙の行方を左右することにはならなかったのが今回は、その溜まりに溜まったガスに引火して大爆発を起こしたともいえる訳なのだが、ではなぜ今回爆発したのか。実はこれにも理由があるのだ。けっして結果論ではなく、今まではガスに引火する可能性が低かったのが、今回はそれが急激に高まったと断言できるのだ。 それは、同じ年金問題でも今までと今回とでは、まるでコインの表と裏のように全く正反対の性格を持っていたからだ。 どういうことかというと、従来の年金問題は年金負担の増加の問題、つまり家計の支出の問題であり、主に若年世代に影響を及ぼす問題であったのに対し、今回は年金の給付の問題、つまり、高齢世代の家計収入を直撃するものであったということだ。 年金は世代格差が問題であるがゆえに、今までは世代が高くなればなるほど問題意識は低くならざるを得なかった。それも当然の話で、もうもらっている(もしくはもうすぐもらえる)人たちから見れば、年金負担が上がるといっても正直、他人事でしかないのだ。だから、負担を強いられる若年層の政治意識の低さも相俟って、従来の年金問題は大きく選挙を動かすことは無かったわけだ。 それが今回はもらえるはずの年金がもらえないとなったから、安心していた人たちがものすごく深刻な危機感と憤りを感じた。しかも高齢者世代は本来、年金の恩恵を受ける人たちであり、支持をコロコロ変えたりしない保守層の大切(忠実)な票田だったのだ。その人たちが雪崩をうって民主党に投票した。これが地方で自民が票を失った原因だ。おそらく安倍政権は、この「消えた年金問題」の持つ、従来の年金問題との本質的な違いにも気付かなかったと思われる。 年金は、日本では有権者のほぼ100%が利害関係を持つ幅広さという意味でも、お金の問題であり生活に直結するという奥深さの点でも、税と並んで最もデリケートに扱うべき問題であったのだ。それを安倍政権は軽視した。自分の責任ではないと判断し、問題の本質を見誤り、対応が後手に回った。これこそが今回の惨敗の本質だと、私は思う。 ある意味今回の参院選は、「日本の歴史上初めて」、有権者が年金制度の持つリスクを「実感した」その頂点で行われた選挙であった。与党の負けは必定であったというのは、言い過ぎだろうか。 続いて、では有権者は果たして安倍政権を否定したのか、について考えてみたい。(つづく)
by redhills
| 2007-08-01 08:56
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