![]() |
![]() |
1
勝利は美しく、敗北はそうではないと言う。が、グッドルーザーという言葉もある。だからそれは必ずしも真実ではないのかもしれない。
どちらが正しいのかは分からない。でも、見ている側も心を洗われるような勝利の場面というのはやはりあるものだ。 10日の中日ドラゴンズの優勝と、昨日の北海道日本ハムファイターズの優勝には、どちらにもそういう場面があった。 巨人戦の延長12回。優勝をほぼ決定付ける4番ウッズの満塁ホームランが飛び出したとき、信じられないものを見た。ベンチで、あの落合監督がハンカチでまぶたを拭っていたのだ。確かに中日は5点をリードし、裏の巨人の攻撃には守護神岩瀬が控えている。誰もが勝利を確信したことだろう。でもまだ試合中である。それに選手やスタッフならともかく、よりにもよって、監督が、である。しかも、普段は試合中に何があっても表情1つ変えず、冷徹な采配をしてきた落合監督が、目を真っ赤にしている。目を疑う光景だった。 そして、優勝が決まり胴上げも終わったあとの優勝監督インタビューで、落合監督はまた泣いた。「キャンプから厳しい練習させてきて、どうしても優勝しなくちゃいけない、こいつらをどうしても優勝させてやらないといけない、そう考えて…ずっと…」そのあとは言葉にならなかった。でもそれ以上の言葉は要らなかっただろう。一段と高まったスタンドの歓声が彼の涙に応えていた。中日ファンでならずとも、グッとくる場面だった。 鬼の目にも涙、とはまさにこのことだろうな、と思った。いささか古い話だが、東京オリンピックの女子バレーボールで、東洋の魔女を金メダルへと導いた大松監督の話を思い出した。「鬼の大松」と言われたほど厳しく選手を鍛え上げた彼が、金メダルを取って大泣きに泣いたのだった。普段泣かないからこそ、流す涙に価値はある。大観衆の前で男泣きに暮れる落合監督を見て、「いい男だなあ」と思った。 一方の日本ハムの優勝の場面も、また違う味わいがあって感動的だった。 0-0の9回裏。稲葉の鋭い打球が二遊間を襲う。間一髪で追いついた二塁手がベースカバーに入ったショートにトス。きわどい判定がセーフとなる間に、セカンドランナーの森本が好判断でホームベースを陥れた。今期リーグで一番多くホームベースを踏んでいる1番が出塁し、リーグで最も多く送りバントを決めている2番バッターが送って、打点王を擁するクリーンアップで点を取る。1点を確実にものにする、今期のファイターズの攻撃を象徴するサヨナラの場面だった。 しかし、最も感動的だったのは、チームに25年ぶりの優勝をもたらしたのが、トレイ・ヒルマンだったということだろう。ヒルマン監督のインタビューは、落合監督のそれとはまた違って実にさわやかなものだったが、それが逆に感慨を深くさせた。 4年前、メジャーでのプレー経験が全く無く、キャリアといえば、マイナー球団の監督経験しかなかったアメリカ人の彼を連れてきた球団の決断もすばらしいが、アメリカでも最もアメリカ的なテキサス出身でありながら、一度も訪れたことの無い日本で監督としての挑戦を決意した彼の心意気はいかほどのものであったか。そしてそれからの苦労はどれほどのものであったか。 それは大変な苦労であったに違いない。しかしお立ち台の上の彼はいつもとさほど変わらず和やかで、そして、からりと陽気だった。「スタンドと、全国でテレビを見ているすべてのファイターズファンを1人ずつ胴上げしたいです」と言い、決めゼリフである「シンジラレナーイ!」は「1、2の3でみなさんご一緒に」と盛り上げる。そして、彼を暖かく見守る北海道のファンがまた素晴らしい。北の大地に来て3年。ファイターズはどこにも負けないファンを持つ球団となった。 ペナント授与とグラウンド一周が終わり、球場内での記者会見が終わり、祝勝会へと移動する合間のわずかな時間。グラウンドキーパーが土を慣らし、残るファンも僅かとなったグラウンドに再びヒルマンは現れた。彼は、作業をするグラウンドキーパー1人1人に話しかけて感謝の思いを伝え、肩を叩いてその労をねぎらった。そして、まだ残っているファンには、帽子を取って深々と頭を垂れたのだった。ファイターズの躍進の秘密が分かった気がした。 ドラゴンズ、ファイターズ、どちらの勝利もそれぞれに美しかった。 この両者がぶつかり合う日本シリーズは、必ずやすばらしいものとなることだろう。 ■
[PR]
▲
by redhills
| 2006-10-13 15:22
| 野球
1 |
![]() |
フォロー中のブログ
カテゴリ
以前の記事
2008年 02月
2008年 01月 2007年 10月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 01月 2005年 08月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||
外部サイトRSS追加 |
||